味の想い出
8月15日は妻の母の誕生日。
岳母は今年、還暦を迎えた。
ちょうどお盆休みということもあり、妻と私そして妻の兄の3人で記念旅行を企画し、岳母を連れ信州へ出かけた。
今回の旅における岳母からのリクエストのひとつが「おいしいおやきが食べたい」ということだった。
岳父は私が妻と結婚する前にお亡くなりになられているのだが、生前、妻がまだ幼い頃に、家族で信州旅行に出かけた際に食べたおやきの味は、今でも岳母の胸に想い出とともに焼き付いていると聞かされていた。
妻が幼い頃の家族は傾きかけた家業を立て直すのに必死だったそうだ。
旅行や外食など滅多に行くこともない清貧の暮らしの中、ほんのひとときの休息旅行で初めて食べたおやきの味は代え難い想い出の味なはずだ。
「おいしいおやきが食べたい」
岳母にとっておやきはただおやきにあらず、人生を振り返り喜ぶことができるもの。
今回の道中でいただくおやきがもし仮にいまひとつなら、岳母の想い出までくすんでしまうようで、私は気が気でなかった。
白馬から善光寺へ抜ける道すがら、北アルプスを臨む山里鬼無里(きなさ)に「いろは堂 長野本店」はある。店内には大きな囲炉裏がありゆっくりとくつろぐことができる。
茄子、野沢菜、あざみ、粒あんと幾つかを注文。焼きたてにかぶりついた。
「おいしい」
二口、三口、
「うん」「うん」
小麦粉とそば粉が入った香ばしくもちもちの皮。軽く油で揚げてから釜で焼かれている。
みっしりと詰まった具は、揚げ焼きの手法がいきているのだろう、色鮮やかで旨さが封じ込められている。
「ほんとにうまいね」
親戚へのお土産を買い求める岳母の背中が喜んでいた。
味は想い出をつくる。
次におやきを食べるとき、今度は私が岳母の顔を思い浮かべるだろう。
宮崎 純一
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